★子育て★連載コラム

第67回 麻疹騒動
坂総合病院 渡辺 瑞香子
麻疹風疹混合ワクチン不足
恐れていたことがおきました。麻疹風疹混合(以下MR)ワクチンが手に入りにくくなったのです。私の勤務する病院では、定期接種のワクチンは予約なしで受けられるようにしてきたのですが、MRワクチンについては、とうとう予約制にせざるを得なくなりました。ワクチンが毎週数本しか入荷せず、数量の予測もできなくなったためです。就学前の第2期のお子さんたちはまだ余裕がありますが、第1期のお子さんは2歳の誕生日の前に受けないと、定期接種になりませんので、事は重大です(第54回参照) 。
怖い麻疹
すでに報道されているように、今年は関東を中心に麻疹の流行が見られます。15歳以上の「成人麻疹」が多いことも特徴です。麻疹・風疹・おたふくかぜ混合ワクチンの副作用による髄膜炎が発生した時の混乱により、麻疹ワクチンを接種してない人が多い世代であること、ワクチンによる抗体価が10年も経過すると低下することが原因であるようです。子どもの病気というイメージが強いと思いますが、免疫の無い人は大人でももちろんかかります。きわめて伝染力の強い感染症であり、感受性者(抗体が無いか極めて低い人) を狙い撃ちするように広がって行きます。病気の初期には発疹は無く、かぜの症状に似ているため、気づかずに感染を広げてしまいます(第27回参照) 。麻疹の診療経験が少ない医師も増えており、薬疹と判断されるなどの例も見られています。
麻疹による相次ぐ休校
40歳以上の人はほとんど麻疹の抗体を持っているため、若い世代に流行し、大学・高校の休校などが相次ぎました。ワクチンが非常に有効であり、流行の情報が出た時に早めに手を打てば拡大を防ぐことができます。流行が起きていた大学や地域などでは、独自にワクチンの接種が行われました。間もなく麻疹単独ワクチンは入手できなくなり、ワクチンの品薄を警戒してか、抗体価を測定してから接種するように通達が出ました。その結果、検査の希望が急増して、結果が出るまで1ヶ月待ちの事態を招いてしまいました。そして5月の末頃から、定期接種用のMRワクチンの確保にも不自由することになりました。6月末にはワクチンが増産されて、供給される見通しでしたが、まだその恩恵はありません。
国としての対策が必要
今回の流行は間もなく下火に向かいそうです。しかし、この経験を生かさないと、数年後に同様の事態に陥るでしょう。定期接種で基本的な免疫をつけるのが平時の備えとすれば、いざ流行が始まった時に、免疫の無い人に集中的に迅速にワクチン接種を行うことは有事の対応と言えます。国としての具体的な動きは見られず、備えも構えもできていないことが明らかになりました。麻疹は今でも死亡することがあり、感染症としては重い部類に入ります。10日間高熱が出て、感染の危険が無くなるまでの2週間程度登校も出社もできません。集団発生は生産性を低下させることになります。感染症対策は実は「国防」の一環という視点が必要なのです。お隣の韓国は、2006年にWHOにより西太平洋国で初めての麻疹撲滅国と宣言されました。日本がそれに続くのは果たしていつになることやら。
