★子育て★連載コラム

第65回 ヒポクラテスへの道

                                                坂総合病院 渡辺 瑞香子

 

 臨床研修の義務化

 平成16年4月から臨床研修義務化が始まりました。志望科だけでなく、必修とされる科をすべて研修する制度になったのです。理念としては、自分の専門分野のみでなく、広く一般的な臨床の勉強をし、極端に偏らないということです。収入の保障があるインターン制度という意見もありましたが、「マッチング」という方法で研修先を選ぶことが、新しい形です。医学生が、希望する研修プログラムに順位を付けて選び、病院側も医学生に希望順位をつけます。互いの意向が一致したところで研修先が決定するわけです。かつては大学の医局に直接入局することが多かったのに、今は不人気です。研修先を選べるようになり、都市部を志向する傾向が見られます。医局の体制を維持するため、地域の病院からの医師の引き揚げも行われるという思わぬ弊害(へいがい)が生まれています。


 研修以前の問題

 私の勤務する病院では以前からローテート研修を行っていましたが、今までは内科と外科が基本で、小児科は選択研修でした。必修となれば、小児科に全く興味の無い研修医も来ることになり、どう教えればいいのか、2ヶ月の短期間に何を覚えてもらえばいいのか、悩みながら、緊張して待っていました。まずは、研修以前の問題で悩まされることになりました。医師になる人の気質が変わったのでしょうか?使用済みのカップや食べた後のごみがテーブルにそのまま放置され、空になった冷水筒が冷蔵庫に入っている状況に、唖然。片付けてもらうことに慣れているだけじゃなく、公私の区別もついていないという訳です。


 若い先生たち

 当直などで問題があった時など、電子カルテのメールも利用して指導することがありますが、返事が来ない時は悩んでしまいました。そういえば要返信にしていなかったからかと後で気づきました。「本当ですか」と相槌を打たれると力が抜けますが、「ウッソー」を丁寧に言い換えたつもりのようです。繊細すぎてすぐに落ち込んでしまうことにも戸惑います。それでも若い先生たちの進歩には目を見張るものがあって、こちらも刺激されます。医療人としての資質に欠ける例も見られることから、大学を卒業後、メディカルスクールで教育する制度に変えてはという意見もありますが、今のままでも悪くはないかも。人の話を聞く耳と努力する才能があれば一人前になれます。人の笑顔が自分の喜びになる人なら、最高です。


 医師という職業

 偏差値の高さを自分のプライドにし、社会的地位と高収入を期待する人は、悪いことは言わない、他の仕事を選んだほうがいいでしょう。そんなにスマートな仕事じゃありません。医師になれるのは、あなたの努力の賜物です。でも忘れちゃいけない、親御さんがあなたを支えてくれたことを。まして国公立大の出身ならば、たくさんの税金が使われたことを。研修先で払われる給料の一部も税金です。患者さんが、未熟なあなたの診察を受けてくれるのは、病院のスタッフが培った信頼があればこそだということを。医学を目指す者ならば一度は聞いたことがあるでしょう。ヒポクラテスの誓いを。

   「医業に携わることを許されたからには,全生涯を人道のために捧げる。」(長谷川富三郎氏要約より抜粋)

 折にふれ、思い浮かべてもらいたいものです。( ヒポクラテス:古代ギリシャの医師、医学の父と呼ばれる)