★子育て★連載コラム

第58回 負の遺産

                                                坂総合病院 渡辺 瑞香子

 

 晩産化と結婚前妊娠

 厚生労働省から3月3日に出生に関する詳しい統計が発表されました。二つの点に注目しています。一点は第2次ベビーブーム世代の30〜33歳の女性は50%前後が出産しておらず、晩産化の傾向はなお続いているということ。もう一点は、結婚前妊娠(できちゃった婚)で生まれた子どもが第1子の26.7% に上り、80年の2倍以上になったこと。しかも若い層ほど多く、15〜19歳では8割以上、20〜24歳 で6割以上となり、20〜24歳では80年の約3倍に達するほどだということです。最近産科病棟の回診で感じていたことがそのまま数字に表れているようです。小児科医の立場から言えばどちらも深刻な問題です。


 若年の出産

 若くして親になる人たちは概して将来への見通しや希望があいまいです。経済的に不安定・精神的に未熟な中での子育てが始まります。周りの人たち−例えば祖父母に助けてもらう必要があるのですが、若くして出産に至ることがすでに親子関係に問題を抱えているという意味であることが多いので、順調に行くとは限りません。離婚・再婚への道をたどることも少なからずあります。特にティーンエージャーの出産は、日本の場合、進学の道も絶たれることを意味しており、自分で新たな人生を切り開くことも難しいのです。


 高齢出産

 また、35歳以上での出産は「高齢出産」になり、母体にも子どもにもリスクが多くなります。医療技術が進歩し出産管理に気を配られている今でもです。子育ては小さいうちは体力勝負です。夜な夜な授乳で起こされてまとめて眠れない日々が続きますし、遊ぶことも全力投球です。思春期に入れば精神的に疲れます。産む子どもの数も少ないので、どうしても関係が濃密になりますが、必ずしもいい方に作用するわけではありません。親の年齢が高くなると心のしなやかさも失われがちです。


 子育てと格差社会

 最近話題の本で三浦展氏の「下流社会」を読みました。マーケティングによるデータに基づいて格差社会を分析している興味深い本です。それによると世帯の年収500万円が結婚の壁なのだそうです。300万円未満ではかなり厳しく、150万円未満での結婚はおおむね若い人の「でき婚」と考えればいいようです。派遣社員など不安定な働き方の女性は子どもを産みにくいとか。30代になってもお父さんのリストラなどで経済力が無く、保険料も払えず、妊婦検診を受けないまま出産する方も少なくありません。分娩費用の当てさえも無ければ、その先の子育ての費用はどうなるのでしょう。子ども達の未来が見えません。希望が閉ざされた中でどんな人間が育つのですか?少子化を憂える理由が日本の未来の支え手が減ることであるならば、社会としてどう育てるかの視点も大事ではありませんか?子育ての費用は国家としての必要経費であると私には思えてならないのですが。