★子育て★連載コラム

第55回 インフルエンザパニック

                                                坂総合病院 渡辺 瑞香子

 

 急がれるインフルエンザ対策

 世界的に新型インフルエンザ対策への議論が高まっています。鳥インフルエンザの発生が散発的ながら、世界のあちらこちらで報告されているからです。抗インフルエンザ薬の備蓄の必要性が叫ばれていますが、メーカーでの生産量が限られており、今は世界中に行き渡るのは困難です。生産量の7〜8割を消費していると、厳しい視線を浴びている日本ですが、国としての備蓄は2年後にようやく予定量に達する見込みだそうです。高価な薬であるために経済的に困難な国では独自に生産することも検討されています。迅速な対応のために流行時のシミュレーションも必要です。人類全体として免疫がないわけですから、新型ウイルス出現時に速やかにワクチンを生産する技術の開発も急がれます。


 インフルエンザウイルスの遺伝子

 最近アラスカの永久凍土に埋葬された感染者から取り出したウイルス遺伝子を調べたところ、1918年に大流行したスペインかぜのウイルスは、鳥型の遺伝子の一部が変化しただけで人型に変わったものなのだそうです。しかも細胞への感染に関係する部分は鳥型のまま。これまでの仮説では、豚が人型にも鳥型にも感染するために、同時に感染した時に遺伝子の組換えが起こり、新型が出現するとされていましたが、覆された形です。今問題のH5N1というウイルスは、鳥から人への感染のみで、人から人への感染は報告されていません。何がきっかけで始まるのか、そのメカニズムまで早く解明されて欲しいものです。


 インフルエンザのワクチン

 通常のインフルエンザの流行も勤務している病院の周辺ではまだ起きていません。連日のマスコミ報道ゆえ、今シーズンの治療薬の不足を心配する親御さんからワクチンの相談を受けます。麻疹などと違い、終生免疫ではありませんし、肺炎などの合併症を防いでも、発症を防ぐには不十分なワクチンです。効果の持続が約5ヶ月しか無く、シーズン毎に接種することになりますが、小児には公的な補助はありませんから、お子さんが二人いれば、一万円以上の出費になります。個人的には積極的に勧める気分になれません。慢性疾患があって、重症化する可能性のあるお子さんには必要なのですが。


 パニックに陥らないで!

 いつの日か、新型インフルエンザは流行するでしょう。でも疫病はすべての人を等しく襲うわけではありません。栄養状態が悪く生活環境が悪い地域では重症になりやすく、死亡率も高くなります。個人の免疫力が低下しており、ウイルスの蔓延も防ぎにくい状況だからです。治療薬も手に入らない可能性があります。スペインかぜが流行した時代は、地球は第一次世界大戦のさなかにありました。ウイルスが席捲するには格好の条件だったのかも知れません。医学が進歩してもなお、疫病を制圧する方法は原因の除去を含む環境整備と感染者の適切な隔離です。個人でできることもあります(2122434回も参照してください)。デマに惑わされ、パニックに陥ることが実は一番恐ろしいことだと思います。