★子育て★連載コラム

第52回 こんにちは赤ちゃん

                                                坂総合病院 渡辺 瑞香子

 

 こんにちは赤ちゃん

 「こんにちは赤ちゃん あなたの笑顔 こんにちは赤ちゃん あなたの泣き声 そのちいさな手 つぶらな瞳 はじめましてわたしがママよ」(詞:永六輔 曲:中村八大)1963年の大ヒット曲です。とても微笑ましい歌詩ですよね。でも実際子どもを産んだ時の気持ちは少し違うように思いました。疲労と安堵とかすかな不安が入り混じって、もっと複雑なのです(作者は男性ですものね)。お産は女性にとって、人生の一大事です。時には自らの命を失うこともあります。陣痛は楽なものではないし、難産であれば、精神的にもかなりダメージになります。出産までのいきさつが幸せなものでなければなおさらのことです。


 産科病棟の現実

 産科病棟と言えば赤ちゃんがいて、何だか光に包まれているようなイメージですが、実のところ、結構ドロドロしています。現実的な話で恐縮ですが、出産費用の不払いは、どこの医療機関でも問題になっているでしょう。30万〜50万程度のまとまったお金が必要ですから。「飛込み出産」と呼ぶ、健診も受けていない、妊娠週数が不明なお産もしばしば見受けられます。最近は、出産後の入籍は珍しくはないですが、一騒動になることもあります。根性焼きやリストカットの痕を残す10代のお母さんが心配になります。赤ちゃんのささいなことがいつも気になるお母さんは、実はわが子を受け入れられずにいることがあります。経済的不安や家族の不和などは、当然育児に悪い影響を及ぼします。虐待につながることもあって、医療者側もきめ細かい対応が必要と感じることが多くなりました。


 カンガルーケア

 母子の関係作りを進める方法の一つとしてカンガルーケアがあります。最近導入する医療機関が増えています。生まれてすぐ、裸の赤ちゃんをお母さんの胸に抱っこしてもらいます( 母子の姿勢がカンガルーのよう) 。赤ちゃんにとっては呼吸が安定し、お母さんの皮膚の常在菌を与えることで他の悪い細菌から守る効果があります。生まれたばかりでも、お母さんのお腹に置かれると、自分の力でおっぱいを探して吸いつこうとします。お母さんにとって赤ちゃんの手足が動く感触と暖かさは、えも言われぬ感情を沸き起こします。


 母子関係づくりの重要性

 カンガルーケアは元々はコロンビアの小児科医によって、極低出生体重児に対して試みられた治療法です。保育器が不足したために取られた苦肉の策であったようですが、お母さんの体温で赤ちゃんを温めてもらうことで、低出生体重時の死亡率が激減し、母子関係にもいい影響をもたらすことがわかりました。まず、設備の不足な発展途上国に広まりました。先進国でも、技術の進歩で救命はされても、妨げられる母子関係作りを促し、母親の気持ちの安定にも効果があることがわかり、取り入れられるようになってきました。「子育てのごほうびは子どもの笑顔」その心境に至る道のりは人それぞれに遠くもあり、近くもあり、険しくもあり、平坦でもあるかな。それにしても少子化を憂えてお金を使うなら、出産のところに厚くしてほしいと思う今日この頃です。