★子育て★連載コラム   第42回

佐世保の事件から

                                 坂総合病院  渡辺瑞香子


 謎 

 謎はまだ解けないままです。先日、佐世保の小6殺害事件の審判が出ました。加害者の女児は、人とのかかわりに関心が薄く、幼少期より泣くことが少なく、おんぶや抱っこをせがむこともなく、おもちゃで一人遊んだり、テレビを見たりして過ごすことが多い等、欲求の表現に乏しかったそうです。

家族は「育てやすい子」「一人でいるのが好き」と理解し、表情の変化や行動に表れる欲求を受け止めて、積極的にかかわることのないまま過ごしてしまいました。その結果、彼女は周りの人に対する愛着をうまく形成することができず、基本的な安心感や社会性、共感性の発達も未熟なまま育ち、特に怒り・寂しさ・悲しさといった不快感情があいまいで、うまく処理できないまま抑圧してきたとの分析です。



 多くの子供たちは

 衝撃的な事件だっただけに、加害者の実像や家族のあり方について、これほど詳しく公開されたのは初めてかと思います。事件直後、「普通の子」と報道され、「あいさつをきちんとする明るい子」と女児を知る人たちは話していました。
果たしてその人物像と事件の重大さとのギャップは埋まったのでしょうか。

子どものいるお母さんたちは、多少なりとも不安な気持ちになったかも知れません。
子どもの要求に答えられない時はあるし、テレビに育児をさせてしまう時もあるでしょう。
それでも多くの子どもたちはしなやかに受け止めて、さほどの問題もなく育っていくと理解してください。 


  子供とメディアの関係

 今年、小児科の関連学会などで「子どもとメディア」に関する提言がいくつか出されました。
開業医を中心とする小児科医会が、「2歳まではテレビを見せないで」という提言をしています。

言葉が遅れ、視線を合わせない、友人と遊べないといった乳幼児が最近、臨床現場から数多く報告されるようになり、そうした
家庭ではビデオやテレビを長時間見せている例が目立ち、視聴をやめるように勧めるとしばしば改善しているのです。

小児科学会でも調査をしており、いずれの報告でもテレビの視聴時間が長いほど、しかも親の関わりが少ないほど、問題が大きくなることが指摘されています。
今回の分析には最近の一連の発言が影響を及ぼしたのかもしれません。

 本来の動きと違う現在

 人は、コミュニケーションすることを前提に生まれてきます。
京大霊長類研究所の正高氏らが貴重な報告をしています。

生後8週には、哺乳のリズムが自立し、赤ちゃんの側から声を出し、お母さんの反応を期待すると(哺乳を犠牲にして)。
お母さんの語りかけを真似し、お母さんも無意識に高い調子で抑揚のついた声を出して答えると。
幼少期から対人関係が希薄である場合、元々発達上の偏りがあることが多いのです。
もしも育て方に問題があるとすれば、新生児期までさかのぼるネグレクトでしょうか。

加害者が2歳になる頃、父親が長期間の入院をしたそうです。
子どもの育ちは家族の生き方と切り離すことはできません。
サインに気づき、手をかけてあげる機会を逃してしまったのかも知れません。
 


   

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