★子育て★連載コラム   第37回

人は人なり 鬼も人なり

                                 坂総合病院  渡辺瑞香子


 あるフィクション

 話題のドラマ「砂の器」の原作者松本清張氏の手になる「鬼畜」という作品があります。
数年前に映画を見る機会があり、かなりの衝撃を受けました。
小さな印刷所を営んでいる夫婦の元に、ある日夫の愛人が訪れ、3人の子どもを置いて去ってしまいます。
生活費が入らなくなった結果です。

想像通り、凄まじい虐待が始まります。まだ赤ん坊の次男は事故とも故意ともつかぬ出来事で亡くなり、長女は雑踏の中に置き去りにされ、長男も殺されかけま
す。妻が先立って始まった虐待ですが、経済的に行き詰っていたことと子どもができない夫婦であったことが影を落としていました。
「痛いところ」をつかれると人はもろいようです。



 現 実

 最近、現実に起きている事件の中には、もっと凄惨な例が続きました。
岸和田の事件などは、餓死寸前の子どもを傍らに日常生活を送っていたわけです。
人がそこまで残酷になれることに愕然としてしまいます。

2003年9月18日ユニセフは先進国30カ国における15歳未満の児童虐待および放置死の概況を報告しました。
それによると1993〜1997年の5年間で日本では916人、米国、メキシコに次いで3番目という深刻さです。
理由は定かではありませんが、親子の人格の境界があいまいというか、子どもが自分の所有物であるかのような意識が強いことも一つの要因かもしれません。

 行政の対応は

 医師になって以来、虐待の疑いのある子たちを何人か見てきました。
駆け出しの頃、福祉事務所の担当者にも来てもらい退院後の扱いについて何度か話し合ったことがあります。

しかし、子どもは実の親が育てるのが最善という「神話」が根っこにあって、結局自宅に帰さざるを得ませんでした。
数年後、相変わらず背が伸びなくて傷だらけのその子と再開。
施設に預けられることが決まってほっとしたものの、その後どういう人生を送っているのか気になっています。

最近も児童相談所と対策を考えている矢先、亡くなった子がいました。
今年児童虐待防止法案が改正されましたが、骨子となるべき警察の立ち入り権は見送られました。
緊急避難が必要な例は少なからずあり、現場の人間は途方にくれるばかりです。




  誇りを持って

 緊急避難が必要な例は少なからずあり、現場の人間は途方にくれるばかりです。
厚生労働省の統計によれば、加害者として最も多いのは実母で、平成12年度は60%を超えました。
虐待に走る過程は様々です。
夫婦の不仲、嫁・姑問題、貧困など、追い詰められていく理由はいくつかあるでしょう。

「連鎖」という、実は加害者もかつては被虐待児という例も多々あるでしょう。
子どもが育てにくい場合もあるでしょう。カウンセリングも家庭への介入も大切です。

私は、「どんな状況でもいい母親」を強要しないことも、母親に向かない女性もいることも社会として一度認める必要があると思うのです。
「鬼畜」のラストシーン、警察で長男が父親をかばいます。
そして父親は号泣します。

現実にも、虐待にあった子どもが親を責めるのを見た事がありません。
悲しみも憎しみも複雑で深いものなのです。





   

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