★子育て★連載コラム   第36回

七回忌に

                                 坂総合病院  渡辺瑞香子

 

 大正も終わり頃、ある農家の第3子として生まれたあなた。でも間もなく悲劇が訪れました。
お母さんが若くして結核で亡くなってしまったからです。子どもを3人残して。

農家にはそれでなくても人手がいるから、当然後妻を迎えることになったのですね。
でも、過酷な姑であったのか、なかなか務まらず、3人も違うお母さんを迎えることになったと聞いています。

生母が一人娘であったため、残されたお父さんは婿養子。
あなたの祖母もさぞかし複雑な思いであったことでしょうけれど。
家を守ることが最優先、子どもの気持ちなど考える余地もないことだったのでしょう。

3人目の継母は村で知らぬ者のないほどひどい女性だったと…。
虐待を受けたあなたは、旧制中学から東京へ出たのでしたね。



 大学に入って、法律の道を志したあなた。
しかし、時は第二次世界大戦のまっただ中。

学徒動員で召集され、おそらく軍隊での経験は、その後の人生にも影を落としたものと思います。
終戦間近、沖縄に行くはずだったと…。

船の都合がつかず、種子島で足止めをくったと聞いた記憶があります。
一番つらかったのは、戦友の死。

すでに、ろくな装備も持てずに、なお戦いが続くことへの悲壮な覚悟。
終戦後、軍の倉庫にたくさんの食料が保管してあることを知って(国民はろくに食べられなかったのに)馬鹿馬鹿しくなったと言っていましたね。

故郷は安住の地ではなく、東京で闇屋の真似事もして、学校へ通ったのでしたね。
法律家になる夢はかなわず、宮仕えは不本意でしかなかったのでしょうか。

 あなたと家族らしく暮らした期間はあまり長くはありませんでしたね。
離婚した後は時々訪れる人でしかなくて…。

普段は子供用の雑誌を買ってきてくれたり、興味深い話をしてくれたり、楽しいおじさんでした。
でもお酒が入ると別人。まるで嵐がやってくるみたい。

酔っ払っていると、大声で歌ったり、怒鳴ったり。
何がきっかけで怒り出すかわからないので、私はいつも息を詰めていました。

そんなにお酒っていい物ですか?煙草も確かに健康に害があるでしょう。
でもお酒は家族の心も破壊します。自分で稼いだお金だけでは足りず、お姉さんからもらっていたでしょう?
子どものささやかなお小遣いまで持って行っちゃって。

 

あなたが亡くなったあと、会社の同僚の方たちから聞いた話は、家族が知っている姿とは別のものでした。
信頼されていたのですね。女性にももてたのですね。

私の印象は、中西礼さん著作「兄弟」のお兄さんに似た生き方の人でしたが。
家庭によりどころを求めることができず、会社が倒産した時も結局戻っては来ませんでした。

ならばなぜ結婚したのですか。
恋愛でもないのに。不幸の種をまいただけ。10歳以上も年下の母を守ることもできずに。

ずっと母親代わりだったお姉さんにも面倒をかけ続けて。
もしも、親子でなければ、あなたともっと楽しく話せたと思っています。今年で七回忌になりましたね。




   

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