タバコという名の環境ホルモン

    坂総合病院  渡辺 瑞香子



 喫煙者の悩み

 9月1日から私の勤務先は全館禁煙になりました。健康面を考えれば当然のことなのでしょうが、理解されて定着するまでに少し時間がかかるかもしれません。愛煙家の医師たちも、涙ぐましい禁煙の努力をしているはずです。本来なら、禁煙の指導をする立場の仕事ですが、ヘビースモーカーの呼吸器科医、循環器科医がなぜかいます。喫煙場所を失って、中庭で隠れて吸ったために、蚊の被害にあった人もいるらしいです…うわさですが。

 習慣的な喫煙はまぎれもなくニコチン依存症です。離脱症状をやわらげるためにニコチンパッチの処方もできるのですが、さてどうなりますことやら。スモーカーの女性医師はどうやらいないようで、ホッとしています。

 女性の喫煙

 若い人たちにはウケないでしょうが、喫煙に関しては男女平等である必要はないと思います。検診の帰りにタバコを吸いながら帰る妊婦さん。二人の幼児を連れていながら、子どもの手も引かずにタバコを吸いながら歩くお母さん(仙台市内でも有数の交通量の多い交差点で)。胸がしめつけられそうです。らしくない生き方はカッコいいと思っているのかもしれませんが、先進国の女性喫煙率は高く、日本も例外とは言えません。

女性の喫煙経験率は、中学3年生で22.7%、高校3年生で38.5%にもなります。日本の女性の喫煙率は年々上昇しており、妊娠適齢期である20代や30代の女性で喫煙率が高いそうです。妊婦が喫煙した場合、乳児の低体重の原因になり、流早産、認知・行動障害との関連も疑われます。
また出生後も喫煙することで、幼児の肺炎、喘息などの呼吸器疾患が増加します。
乳幼児突然死症候群とも関連があります。家族や職場の同僚も妊婦さんの前で吸うべきではありません。

 胎児への影響

 胎児は、母親が妊娠中にたばこの煙を吸うことによって、胎盤を通じて有害化学物質に曝露します。
問題は、ニコチン、タール、一酸化炭素だけではありません。たばこの煙の中に含まれるダイオキシン濃度を測定した研究によると、全ダイオキシン濃度は、1.81 ngTEQ/m3であったと報告されています。

個人のダイオキシン類の平均的な1日摂取量約0.3-3.5pg-TEQ/kg/日 の相当部分を占め、環境中への放出量としても無視できません。うち、最も毒性が強い2,3,7,8-TCDDも検出されています。2,3,7,8-TCDDは内分泌の撹乱物質(環境ホルモン)として働いていると考えられます。動物実験によると、ほんのわずかな量であっても感受性の高い時期であれば、奇形などの可能性があるそうです。

仔の生殖機能、甲状腺機能、免疫機能への影響がかなりの低レベルで認められています。ヒトにおける影響については、台湾油症の研究で、子どもの成長の遅延、行動上の問題、知力の不足が認められており、生殖機能への影響も報告されています。                                      *TEQ(Toxic Equivalency Quantity)

 母親になる事は

 当院産婦人科の舩山医師は妊婦さんに「生まれてくる子が(見た目に)何もないからいいということではなく、その子がまた健康な子孫を育めることを考えてたばこはやめるように」指導しているそうです。映画「ステラ」でシングルマザーとして生きる決意をした主人公が言います。
「赤ん坊ができたからって、何で好きなものを我慢しなきゃいけないの。あたしの人生なのに。」
ステラは酒場のバーテンダーです。機会がありましたら、その後生まれた娘にそそぐ、彼女の深い愛情をどうぞご覧になってみて下さい。